無断録音の違法性
- コラム
「言った」「言わない」という問題で争うことを避けるためにも、会話を録音することを考える人はいると思います。その際に無断で録音することは違法になるのか。今回の記事では、無断録音の違法性と証拠能力について解説していきます。
1 無断録音とは
そもそも無断録音とは、会話の当事者の一方が相手方に同意を得ず、何の断りもなく会話を録音し、またはその事実を知らせないことを言います。
また、「秘密録音」と呼ばれることもあります。
2 盗聴との違い
厳密にいうと、会話を相手に無断で録音することと、盗聴とでは違いがあります。会話当事者の一方が相手方に同意を得ずに、会話を録音することを無断録音といいますが、
これに対して、第三者間における会話を当事者の同意を得ずに録音することが盗聴にあたります。
なお、第三者が会話当事者の一方のみから同意を得て録音する場合を同意盗聴ということもあります。
3 無断録音は違法なのか
まず、盗聴そのものは、実は犯罪には当たりません。
盗聴の前後の行為として、他人の部屋に盗聴器を設置したという場合、他人の部屋に侵入した行為が住居侵入罪に該当することになります。
また、盗聴したことで得た情報をもとに脅したり、金品を要求したりする行為が脅迫罪や恐喝罪に該当することになります。
このように、盗聴そのものに関しては犯罪とはいえませんが、その前後の行為が犯罪にあたることになります。
盗聴が犯罪ではないように、無断録音も犯罪ではありません。
また、無断録音に関しても他人のプライバシーを侵害するのではないかという問題がありますが、もっとも、無断録音に関しては他人が実際に話した内容を録音しているわけで、その意味では他人は自らのプライバシーに関わる内容を開示しているということになります。
したがって、プライバシーの侵害の程度は、盗聴の場合と比較すると、低いと考えられます。
ただし、その音声データを悪用する場合は、プライバシーの侵害の程度はやはり高いといえます。
近年では、スマートフォンの普及に伴い、個人が会話を録音することが増えていて、無断録音自体は違法ではないものの、録音した音声をインターネット上で公開するなどして、名誉毀損やプライバシーの侵害に当たる可能性はあります。
例えば、会社でのパワハラを無断録音したという場合には、そのデータを自分で扱うのでなく、弁護士に任せることことがおすすめです。
4 無断録音したデータは証拠になるのか
果たして、裁判という場面で事実認定の資料として用いるための証拠の形式的な資格が認められるかどうか。つまり、無断録音したデータの証拠能力があるかどうかが問題になります。
刑事事件では、一般人対国家機関となるため、国家機関が圧倒的な権力で個人の権利を侵害しないように、証拠の集め方について厳格に判断されます。
しかし、民事事件では著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法を用いない限りは、証拠能力はあるとされています。
5 東京高等裁判所 昭和52年7月15日判決
相手との会話を無断で録音したことについて、違法だから証拠とするべきではないという形で争われた裁判例があります。
東京高等裁判所昭和52年7月15日判決では、「著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法」を用いない限りは、証拠能力は否定されないということになります。
そして、本件では、酒の席での発言を、単に発言者が知らない間に録音したにとどまり、「人格権を著しく反社会的な手段方法で侵害」したとはいえないとして、証拠能力ありとしました。
6 まとめ
以上のように、相手に無断で会話を録音したとしても、その行為自体が違法だということはありません。
そして、証拠として提出する際、証拠能力がないとされることは少ないとしても、無断で会話を録音する行為自体に問題があるかは別の話です。
先ほどの東京高裁判決は、「話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかである」と判示しています。
つまり、相手に無断で会話を録音するという行為は、犯罪とはいえないまでも、人格権侵害として損害賠償責任を負う可能性があるということです。
これらの点をよく理解し、無断録音したデータは慎重に扱うようにしましょう。
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