ネット上でお店や女の子を誹謗中傷した場合に生じるリスク

グランシエル法律事務所

あいりす大阪法律事務所

  • コラム

ネットの匿名性を悪用する誹謗中傷が社会問題になっています。誰もが被害者になり得ますし、無意識に加害者になってしまう可能性も大いにあります。

風俗店などの女性スタッフに対するネット上の誹謗中傷によるトラブルも非常に多く発生しています。

その誹謗中傷で、発信者情報開示請求が認められた例は存在します。

掲示板やSNSに匿名ということで気軽に投稿してしまう人が多くいますが、非常にリスクが伴います。

今回の記事では、ネット上で風俗店や女性スタッフを誹謗中傷した場合に生じるリスクについて解説していきます。

1 誹謗中傷になる内容は?

口コミのまとめサイトや掲示板、SNSなどに風俗店・風俗嬢のことについて投稿している方が多いですが、それらの言葉はどこから法律上の誹謗中傷となるのでしょうか。

民事事件については、同定可能性と権利侵害性について検討されます。

⑴同定可能性

同定可能性とは、誹謗中傷にあたるかもしれない書き込みが被疑者自身について書かれたものであるかということです。

他人ではなく本人について書かれたものであるということを主張・立証されれば、誹謗中傷の削除を請求されたり、犯人を特定されたりします。

風俗嬢の場合は、源氏名で活動していることが多いです。

そのため、源氏名で誹謗中傷されることが多く、源氏名と本人との同定可能性はどうなのかという検討が必要になりますが、判例では、源氏名の誹謗中傷について、同定可能性が認められているケースが存在しています。

源氏名を使って社会活動を行なっており、社会に一定程度定着している場合には、源氏名に関連づけられた被害者の人格的利益等が侵害されたとして、同定可能性が認められることがあります。

 

⑵権利侵害性

誹謗中傷となるもう一つの要件が権利侵害性です。

ネット上の誹謗中傷の書き込みによって、自らの法律上保護されるべき権利が侵害されたということです。

 

2 名誉毀損

書き込みの内容が名誉毀損に該当し、名誉権が侵害されたとするためには、具体的な事実を指しており、その事実が被害者の社会的評価が低下したといえるかどうかを検討する必要があります。

この社会的評価の低下については、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきであるとされています。

風俗店の女性スタッフに対して、本番行為をしているという旨の書き込みに関しては、買春行為に該当するため、犯罪行為をしているという事実を指しますので、被害者の社会的評価を低下される内容であると言えます。

 

3 名誉感情侵害

名誉感情とは、人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価のことを言います。

名誉毀損における名誉権が被害者の社会的や客観的評価であったのに対して、名誉感情は主観的な評価を指します。

名誉感情の侵害が違法になるかどうかについては、社会通念条許される限度を超える場合に限り違法性があるとされています。

例を挙げると「ブスだった」「キモかった」などの言葉が名誉感情で問題となります。

これらの言葉の違法性については、裁判例も分かれており、判断が難しいようです。

状況や前後の脈略、回数についても判断が変わってくるものですので、どこからが違法になるのか、書き込んだ言葉について誹謗中傷に該当するのかどうか迷ったら、弁護士に相談していただくことをお勧めします。

 

4 プライバシー権侵害

プライバシー権とは、誰にも公開していないような個人的な事柄を他者にみだりに公開されないという権利や事故に関する情報をコントロールする権利のことを指します。

これを侵害する行為、つまり、誰にも公開していないような個人的な事柄を言いふらされるようなことがあれば、プライバシー侵害となる可能性があります。

プライバシー侵害は、以下の3つの要件を満たす情報が公開された場合に、成立すると判断される可能性があります。

①私生活上の事実又は事実と受け取られる可能性がある。

②①の事実が公開されていないものである。

③①の事実が通常は公開を欲しないものである。

例えば、プライバシー情報の例としては、

・前科

・持病

・身体的特徴

・日常生活、行動、住所

・身分行為(結婚・離婚)

・指紋

上記のような情報が挙げられます。

しかし、これらは例であり、3つの成立要件を満たしていれば、これ以外の情報でもプライバシー情報となり得ます。

もっとも、プライバシー権は憲法の規定によって明確な定義が定められているものではないため、時代の変化に従って解釈が変わる可能性があります。

情報化が進んだ今日では、プライバシー権を自己の情報をコントロールする権利であるとする考え方も有力です。

 

5 誹謗中傷した場合に起こりうるリスク

発信者情報開示請求とは、匿名での情報発信者を特定するために、その情報を持っている業者に対して、開示請求する裁判です。

発信者情報開示請求訴訟で開示が認められると、発信者の情報がわかるので、その後に名誉毀損等の損害賠償請求をすることができるようになるという流れです。

そこで、誹謗中傷が載せられた掲示板やSNSの管理者が保有するIPアドレスなどの情報開示がされ、そのIPなどから判明したプロバイダが保有する契約者情報を開示してもらうという流れです。

これによって初めて犯人が特定されます。

犯人が特定された後には次のようなリスクが考えられます。

⑴慰謝料や損害賠償金を要求される

誹謗中傷を書き込んだことが特定されれば、損害賠償慰謝料を請求される可能性があります。

誹謗中傷により精神的に負担を負うことになれば、休業を余儀なくされたり、売り上げが落ちたとお店から損害賠償や慰謝料を求められる可能性があります。

掲示板やSNSに本番行為をしたという旨の書き込みがあれば、嘘の情報であってもそれを見た他のお客さんが鵜呑みにして、性的なことを強要したり、それが原因で傷害事件になったケースも存在します。

この場合、被害者への被害は小さいとは言えず損害賠償の金額が高くなることも予想されます。

 

⑵逮捕される

ネット上の誹謗中傷については、名誉毀損罪、侮辱罪、業務妨害罪に該当する可能性があります。

刑法(名誉毀き損)
第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)
第203条の2 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

名誉毀損罪における名誉毀損とは、公然と事実を摘示して社会的評価を低下させることです。

事実の公共性、目的の公益性、真実性の証明がなされた場合には、違法性が阻却されて犯罪は成立しません。すなわち、社会的な評価を低下させるような事実を摘示したとしても、公共性がある事実を公益を図る目的で公表し、その事実が真実である場合には犯罪にはなりません。

 

(侮辱)刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

侮辱罪は公然と人を軽蔑の表示をすることを処罰します。

侮辱とは、他人の社会的地位を軽蔑する犯人の抽象的判断を公然発表すること,社会的地位を害するに足るべき具体的事実を公然告知することです。

侮辱罪に関しては、名誉毀損罪とは異なり事実の摘示はしなくても成立します。

 

(信用毀損及び業務妨害)
第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)
第234条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

業務妨害罪は、威力・偽計・風説の笠ふにより業務を妨害する行為により成立します。

「威力」とは、人の意思を制圧するような勢力をいいます。ネット上で殺害予告をする言葉が例としてあります。

「風説の流布」とは、客観的な真実に反する虚偽の情報を世間に広めることをいいます。

このように、ネット上に誹謗中傷を書き込むことによって、犯罪が成立する可能性があり、逮捕されて処罰される可能性があります。

損害賠償などの金銭だけではなく、刑事処罰を求められることもあるということです。

 

6 解決するためには

このように気軽に誹謗中傷を書き込んだもののことが大きくなってしまってお困りの場合には、弁護士に相談することが重要です。

被害届を出すことをやめてもらい、すでに出していた場合には取り下げてもらうように伝えてくれます。

そして速やかに示談を行う必要があります。

そうすることにより、逮捕されることを防ぐことができます。

逮捕前に示談を成立することができれば、その結果、警察への通報や被害届を提出することを防ぐことができますので、警察に知られない可能性が高くなります。

逮捕後でも釈放や不起訴の可能性が高くなります。

警察や検察は、加害者の処分を決める際に、被害者がどれだけ強く加害者を処罰してほしいと思っているかを考慮します。

そのため、逮捕されても示談が成立していれば、加害者は被害者を許す気持ちがあり、それほど強い処分を望んでいるわけではないと判断され、早期の釈放をされたり、不起訴処分になり、刑事裁判を避けることができる可能性が高くなります。

そのため、少しでも早く弁護士に相談することをお勧めします。

 

7 弁護活動の流れ

⑴事実確認

弁護士はまず、本人または家族から事実確認を行います。

いつ、誰と、どこで、どのようなトラブルが起きたのか具体的に詳細を家族または本人から確認をとります。

また、すでに書類に署名をしたり、金銭を支払ってしまっているのか、警察に通報されたのかも情報を集めます。

弁護士は守秘義務が課せられているので、情報漏洩の心配はないため、嘘偽りなく事実を話す必要があります。

恥ずかしいことや不利になり得る情報を伝えないでいると、弁護士が適切な弁護活動を行うことができない場合があります。

 

⑵お店に連絡をする

トラブルの代理人として、介入することになった旨や本人、家族、勤務先への連絡を禁止するという警告、違反した場合には法的措置を取る旨を伝えます。

 

⑶示談交渉

これまでの事実確認に基づいて、示談交渉を行います

弁護士はお互いが納得できる解決案を探して、提案します。

示談金については、状況などの相場によりますが、お店側の請求が適切ではない場合には、減額の交渉を行います。

今後のトラブルを防止するためにも、お互いが納得できるまで徹底的に話し合いを行うことが必要です。

 

⑷示談書の作成

お互いの同意が得ることができれば、示談書として書類に明記して、お互いに署名・捺印を行います。

示談書に明記する内容の中でも、お互いに接触や連絡をしないことを約束する接触禁止条項、示談書で定めた以外の債権債務が存在しないことを確認する清算条項、トラブルの事実をお互いに第三者に口外しないことを約束する守秘義務条項は特に重要です。

 

8 まとめ

匿名性を利用して、気軽にネット上に書き込みができる時代ですが、誹謗中傷に該当することを書き込んでしまうと損害賠償を支払う必要になったり、逮捕されるかもしれないリスクが伴います。

事実であるのか嘘なのか関係なく、風俗店や女性スタッフに関する誹謗中傷は書くべきではないです。

もし、このようなことでお困りごとがございましたら、風俗トラブルに強い弊所へご相談ください。

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