損害賠償や慰謝料を請求されたら支払う必要はあるのか

グランシエル法律事務所

あいりす大阪法律事務所

  • コラム

風俗店を利用の際に、本番行為や盗撮をしてしまいトラブルになると、罰金や損害賠償として金銭の支払いを要求されるケースが非常に多いです。

これらの要求は応じる必要があるのか。

今回の記事では、罰金や慰謝料を請求された場合に、支払わなければいけない義務があるのかについて解説していきます。

1 風俗トラブルで良くある4つのケース

⑴本番行為

まず、前提として、多くの風俗店ではお客さん、そして風俗嬢に本番行為を禁止しています。

なぜかというと、風俗店側が提供しているサービスとして、お客さんや風俗嬢に本番行為を認めてしまうと、売春防止法違反になるためです。

売春防止法第6条では、本番行為をする女性の仲介やあっせんを行った者には2年以下の懲役または5万円以下の罰金を科すとされています。さらに、第11条では、本番行為がある事実を知った上で場所を提供した者には3年以下の懲役または10万円以下の罰金、これを業とした者には7年以下の懲役または30万円以下の罰金を科しています。

上記のような売春防止法違反を避けるために、基本的に風俗店側はお客さんや風俗嬢に本番行為を禁止しています。

そして、風俗店で風俗嬢に本番行為を強要した場合には、刑法第177条の強制性交等罪が成立する可能性があります。

強制性交等罪の罰則は、未遂の場合でも5年以上の有期懲役となります。

このように、風俗店で無理やり本番行為を行った場合には、風俗嬢が本番行為を強要されたと主張すれば、強制性交等罪が成立する可能性があります。

女性スタッフと合意のもと、本番行為に及んだとしても、後から「無理やり本番行為をされた」と主張されれば、合意の証拠でもない限り不利になってしまいます。

 

⑵盗撮

風俗店で盗撮行為をしてしまった場合は、軽犯罪法違反、さらに都道府県によっては迷惑防止条例違反になる可能性があります。

軽犯罪法第1条23号では、「人が通常衣服をつけないでいるような場所を密かに覗き見」した行為に該当するとされており、軽犯罪法違反による刑罰は、1日以上30日未満の期間拘留されるか、1000円以上1万円未満の科料が科されます。

迷惑防止条例違反では、各都道府県によって差がありますが、大阪での迷惑防止条例違反の場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が課されることになっています。

また再犯を繰り返し、常習性が認められた場合は、厳罰化されて、盗撮行為については2年以下の懲役又は100万円以下の罰金となり、カメラを向けたり、設置する行為については、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。

 

⑶過剰なサービスの強要

風俗店で女性スタッフに、過剰なサービスを強要した場合には、刑法176条の強制わいせつ罪、または刑法223条の強要罪が成立する可能性があります。

強制わいせつ罪の罰則としては、6ヶ月以上10年以下の懲役、また強要罪の罰則としては、3年以下の懲役となります。

これらはいずれも、未遂の場合でも処罰対象となります。

風俗店では、基本的に本番行為の禁止と従業員が提供するサービスの範囲を明示しています。その範囲を超えたサービスを強要すると強制わいせつ罪が成立する可能性があります。

強制性交等罪は、本番行為だけではなく肛門性交や口腔性交を強要した場合にも適用されるため、サービスの範囲を超えた肛門成功や口腔成功をした場合には、強制性交等罪が成立する可能性があります。

 

⑷18歳未満

もし、女性スタッフが18歳未満であるということを知りながら、性的サービスを受けた場合には、児童買収・ポルノ禁止法で禁止する児童買春や各都道府県の青少年保護育成条例違反が成立する可能性があります。

児童買春罪が成立すれば、罰則として5年以下の懲役または300万円以下の罰金となっています。

 

2 損害賠償とは

お客さんの行った本番行為により女性スタッフが怪我をしたり精神的ストレスにより、お店を休むことになったため、損害賠償を払うように要求されたり、女性スタッフの精神的負担により男性恐怖症になったため慰謝料を要求されるケースもあります。

お店や女性スタッフは、さまざまな損害の理由を挙げて、損害賠償金や慰謝料を捲し立てようと請求してきます。

ほとんどの場合では、支払う必要のないものまで必要のない金額まで要求してきますので、言われた通りの要求を受け入れないようにするべきです。

そもそも損害賠償請求とは、相手による債務不履行や不法行為によって損害を受けたときに、その損害についての補償を求めることです。

そして、その損害賠償には2種類ありますのでそれぞれ解説していきます。

⑴不法行為による損害賠償

民法709条(不法行為による損害賠償)

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

709条では、わざとまたは誤って人に金銭的な損害を与えた場合には、賠償しなくてはならないと書かれています。

例えば、本番行為によって必要となった妊娠検査日や治療費、それらで仕事を休んでいる間に稼げたはずの収入などが該当します。

民法710条(財産以外の損害の賠償)

「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」

710条では、精神的損害、つまり慰謝料として、女性スタッフが精神的にショックを受けた場合には賠償しなければならないということです。

 

⑵債務不履行による損害賠償

民法415条(債務不履行による損害賠償)

「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」

415条の債務不履行による損害とは、契約関係にあるものの間で、一方が相手に与えた損害を補填することです。

風俗店において、お金を支払うことにより、女性スタッフから性的サービスを受けるという契約が成立していますので、利用規約に「本番行為は禁止」と書かれていれば、本番行為をしないという責務がお客さんに課されています。

そのため、本番行為をすることは債務の本旨に従った履行をしなかったと考えられるため、店からお客への債務不履行による損害賠償請求が認められる余地があります。

 

3 支払い義務はあるのか

⑴風俗店に対しての支払い義務

本番行為によって、女性スタッフが休んだり、やめてしまった場合には、お店の売上は減少しますし、新しい人材を募集するのにも広告費等のコストが発生します。

しかし、判例ではある人が会社の一員に損害を与えたことで、その会社に損失が生じた場合では、その社員が会社組織の中で替えが効かない人物で、なおかつ、経済的にも一体の関係でなければ、加害者への損害賠償は認められないとされています。

つまり、トラブルの被害者がお店の経営者であるようなケースではない限りは、加害者はお店への賠償金の支払い義務はありません。

 

⑵女性スタッフに対しての支払い義務

女性スタッフの本番行為に対する同意は得ていたものの、怪我を負ったり、避妊具の正しい使い方ができていなかったなど、お客さんに故意過失があると認められれば、治療費や検査費、休業の間の賠償責任が生じる可能性はあります。

女性スタッフは本番行為について同意しているものの、怪我をしたり、妊娠するかもしれないことまでは許容していたわけではないからです。

しかし、本番行為を許容すること自体ある程度のリスクがあることは女性スタッフも理解しているので、お客さんに過失があっても過失の度合いによって、支払うべき損害賠償の金額が変わるため、風俗店側の言う通りに支払う必要はありません。

女性スタッフの本番行為に対する同意がないケースでは、状況によりますが、強制性交等罪などが成立する可能性がある問題です。

もし、強制性交等罪に該当するような暴力や脅迫を用いて、本番行為を強要したのであれば、高額な損害賠償を支払わなければならない可能性があります。

そして強制性交等罪は5年以上の有期懲役となり重罪であるため、被害届を出さないことや告訴をしないことを条件に多額の損害賠償金を請求されるケースがあります。

同意をしていたわけではないものの、否定も拒否もしていないようなケースでは、強制性交等罪が成立する可能性は低くなりますので、無理やり本番行為の及んだ場合に比べて損害賠償や慰謝料の金額は低くなります。

 

4 本番行為における慰謝料

⑴慰謝料は被害者との示談交渉で決まる

強姦の加害者が被害者に慰謝料を支払う場合、金額は示談交渉の中で決まります。示談金における慰謝料の額は、当事者間の合意で決まるものですので、慰謝料の相場を明言することは難しいです。

強姦事件では、加害者が被害者と直接話し合うことはせず、弁護士を通して示談交渉を行います。

示談は交渉ごとであるため、被害者の被害意識が強く、加害者に対する処罰感情が強い場合においては、要求してくる慰謝料も高くなります。

また、加害行為が悪質であるかどうかによっても慰謝料は高くなります。反抗の計画性や行為の内容と程度等が慰謝料の金額に影響を及ぼします。

さらに、強制性交罪では、加害者がその目的を達成させるために、相手の抵抗を困難にするほどの強度の暴行を加えるケースも多くあります。その場合、怪我をして治療のためのその期間に応じた入通院慰謝料が加算されて請求されます。さらに深刻な場合には、後遺障害慰謝料も加算されることもあります。

 

⑵慰謝料の相場

上記のように本番行為のトラブルの慰謝料は、事情に大きく左右されます。慰謝料を含む示談金は、当事者同士の話し合いの上で決まるものです。

最も重要なのは、被害者の納得です。そのため、100万円で合意に至ることもあれば、500万を超えることもあります。加害者の支払い能力にもよりますが、300万円は必要だと考えておくと無難でしょう。

 

5 盗撮における慰謝料

盗撮されたショック、精神的ダメージにより被害者女性が休んだり、やめてしまうこともあります。それによって生じるお店の売上の減少については、請求されても支払う必要はありません。

しかし、女性が盗撮されたことでトラウマになったり、男性恐怖症になり、男性への接客ができなくなった場合には、被害者女性に対して、休業損害を支払う必要が出てきます。

また、その際に暴行を働いてしまったりして、怪我をさせた場合には、治療費·通院交通費·入院費などの財産的損害も賠償する必要があります。さらに、風俗嬢はサービスを盗撮されただけでも不快な気持ちを強く抱くのはもちろんのこと、今日のインターネットの発達を鑑みれば、画像や動画の流出に対して恐怖心でいっぱいになることは当然です。

以上のことに加えて、初犯か常習犯なのかといった悪質性、トラブル後の反省謝罪の有無、被害者女性が加害者に対してどれほど強い処罰感情があるかといったお互い事情が重要な要素になります。

これらを踏まえて、風俗トラブルにおいての慰謝料の相場は、10万円から30万円です。加害者が事件を穏便に済ませるために、これより高額の慰謝料に同意する場合もあり、ネット上に動画をアップロードしている場合など慰謝料が100万円を超えるケースもあります。

 

6 風俗トラブルの対処法

⑴その場でサインしない

お店側から慰謝料や損害賠償金などを要求されるときに、示談書にサインするように求められるケースがあります。

このような場合、お店が用意した書類にはお店側に有利になるように条件が盛り込まれていたり、意図的に不備があったりと、サインしてしまうとあなたが不利になってしまうことが多いです。

このため、脅迫や暴行されてサインを強要されることもあるかもしれませんが、この場で強要されるままにサインしたりすることは、絶対に避けるべきです。

 

⑵証拠を残す

上記のように、脅迫や暴行を受けた場合には、写真や診断書など証拠を残しておくことが必要です。

写真や録音などのこうした証拠を残すことにより、示談交渉の際に効果的になり、警察に事情を聞かれた際にも、有力な証拠として活用できます。

 

⑶その場で支払わない

風俗店でトラブルとなった場合に、店内の密室などで女性スタッフや責任者から慰謝料や損害賠償金を高額請求されるケースがあります。

このようなケースでは、事実無根の疑いをかけられている場合でも実際に違反行為を行った場合でも、相手が請求してきた慰謝料や損害賠償金をその場で支払わないことが重要です。

その要求してきた慰謝料や損害賠償の金額が法外な金額ではなく妥当なものであるのかを判断する必要があります。

風俗店や女性スタッフが要求してきた金額が法的に正当な金額ではない場合が多いです。

脅迫されたり強要されることもあるかもしれませんが、要求された金額をそのまま支払うことは避けて、風俗トラブルに強い弁護士にご相談することをお勧めいたします。

 

⑷弁護士に相談する

風俗トラブルの際に、女性スタッフやお店側から、示談書へのサインを強要されたり、脅迫や恐喝を用いて慰謝料や損害賠償の要求をされた場合は、すぐに弁護士に依頼するべきです。

このようなお店側の行為は脅迫罪恐喝罪に該当する可能性があります。

弁護士に依頼することで、このような怖い思いもせずに、弁護士に全て任せることができますし、勤務先や家族に知られないまま早期解決できる可能性が高まります。

 

7 まとめ

以上で、風俗トラブルについての慰謝料や損害賠償は風俗店に対しての支払い義務はなく、過失の度合いに応じて女性スタッフに支払う必要が発生する可能性があることを解説しました。

それでも、風俗店は何らかの理由をつけて金銭を要求してきます。

法的根拠のない損害賠償を請求してきますので、ご自身だけで対応して、判断することは非常に難しいかと思います。

しかし、相手が弁護士となれば風俗店も訴えられることになるような行動はしなくなりますので、抑止力という意味でも弁護士にご相談することをお勧めします。

風俗トラブルでお困りごとがございましたら、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください。

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