盗撮未遂は犯罪?
- コラム
風俗店を利用する際に、性的サービスを盗撮したことによる利用者と風俗店とのトラブルは非常に多く発生しています。
そこで今回の記事では、盗撮をしようとしたものの撮影せずに踏みとどまったり、盗撮する前にバレて盗撮には至らなかったケース、つまり未遂の場合でも犯罪になるのかということについて解説していきます。
1 風俗での盗撮行為により成立する犯罪
まず、盗撮行為そのものを犯罪と規定している法律はありません。
では、風俗店での盗撮では、どのような法律が適用されて、犯罪として成立する可能性があるのか説明していきます。
⑴迷惑防止条例違反
風俗での盗撮がバレた時に、警察に逮捕される可能性は全くないわけではありません。
逮捕されるかどうかはその状況によって異なります。
デリヘルでの盗撮が刑事事件になる際には、迷惑防止条例違反が考えられます。
迷惑防止条例とは、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」の略称で、社会一般の人々に著しく迷惑をかける暴力的な行為等を防止して、住民の生活の平穏を守るための法律です。
47都道府県や一部の市町村で制定されており、この迷惑防止条例の中に盗撮に関する規定があります。各都道府県によって条例に書かれている文言は多少異なります。
つまり、風俗での盗撮が迷惑防止条例違反以外等するかどうかは、それぞれの都道府県の迷惑防止条例の内容によって変わってきます。
東京都の迷惑防止条例違反では第5条に「粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止」が定められています。これによって、デリヘルでの盗撮行為は取り締まりの対象とされます。
また大阪府でも迷惑防止条例が改正され、デリヘルの盗撮が条例で規制されることになりました。
東京都迷惑防止条例は「住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」と「公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物」で下着又は裸体の盗撮を禁止しています。
自宅は、住居に該当し、ラブホテルや風俗店のプレイルーム等は「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」にあたるので、処罰対象になります。
そのため、風俗を利用中に女性スタッフを盗撮する行為は条例違反となります。
また、実際に撮影を行なっていなかったとしても、撮影するためにホテルや自宅内に隠しカメラを設置したり、撮影機器を女性スタッフに向けるだけでも東京都や大阪府などの迷惑防止条例違反に抵触します。
東京都の迷惑防止条例では,以下のように規定されています。
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
なお常習の場合には
2年以下の懲役又は100万円以下の罰金
すなわち、風俗店での盗撮行為も警察に逮捕されてしまう可能性があります。
ただし、現時点で一部の県では改正がまだされておらず、自宅やホテル、風俗店のプレイルームでの盗撮が規制対象となっていません。
盗撮トラブルを起こしてしまった場合には、その地域の迷惑防止条例を確認する必要があります。
⑵軽犯罪法
軽犯罪法
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
引用元:軽犯罪法
軽犯罪法1条には、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」は処罰対象であると規定されています。
風俗店のプレイルームやデリヘルを呼んだラブホテルは、基本的に全裸になることが想定されますので、この場所に該当します。
しかし、軽犯罪法では拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)か科料(千円以上1万円未満の金銭罰)という刑罰しか定められておらず、軽い刑になっております。
軽い刑とはいえ、犯罪であることに変わりはなく、被害届が出されると被疑者という扱いにされます。
このケースで逮捕されるのは、定まった住居がないか任意出頭に応じない場合となります。
⑶建造物侵入
刑法第130条
「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」
店舗型風俗店のプレイルームや、デリヘル利用の場合のラブホテルに盗撮目的で立ち入ったケースでは、正当な理由がないことは明白であるため、建造物侵入罪が成立し、逮捕される可能性があります。
自宅にデリヘルを呼んで、盗撮を行った場合には、建造物侵入罪が問題になることはありません。
建造物侵入罪という犯罪は、住居や建造物の管理権者の管理権を侵害した場合に成立する犯罪であるため、迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反では、風俗店従業員である女性が被害者となりますが、建造物侵入での被害者は風俗店になります。
しかし、自分と女性スタッフの性的サービスを隠し撮りする目的で建物内に入ったとしても、他人の性的サービスの盗撮目的でない限り違法性も低く、建造物侵入罪で検挙されることは考えにくいとされています。
2 盗撮未遂は逮捕されるのか
未遂罪とは、犯罪の実行に着手はしたものの、なんらかの事情によってその犯罪を完遂しなかった場合に成立する犯罪です。
全ての犯罪について、未遂罪があるわけではなく、特別に「未遂罪も処罰する」という規定がなければ処罰されません。
それでは盗撮行為についてですが、上で説明した各都道府県が定めている迷惑防止条例、東京都の迷惑防止条例を例にとっても、盗撮について未遂罪の規定が定められているわけではありません。
つまり、「盗撮未遂罪」という形では犯罪が成立しないということです。
しかし、条文では盗撮行為だけではなく、「次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体 を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し 向け、若しくは設置すること。」を禁止しています。
すなわち、盗撮未遂罪はなくても、盗撮しようとしてカメラやスマホなどを人に向けた時点で迷惑防止条例違反が成立するということです。
撮影ボタンを押していなくても人に向けた状態で、バレないように設置していることも迷惑防止条例違反になるということです。
3 盗撮がバレたら逮捕されるのか
盗撮事件についてニュースなどで報道されているのを見たことがある人は多いと思いますが、風俗での盗撮で逮捕されたというニュースを見たことがある人はあまりいないのではないでしょうか。
では、風俗での盗撮行為で逮捕されるのかについて、解説していきたいと思います。
⑴被害届や告訴状
そもそも、被害届は犯罪被害に巻き込まれたことを捜査機関に知らせるための書類であり、警察に捜査義務が課せられるわけではありません。
そして、風俗での盗撮行為についてのトラブルは、お店や女性スタッフから金銭を要求されることが多く、金銭的解決を望むことが多い事案のため、民事事件の要素が強いです。
示談となれば、民事上のトラブルを解決するための手段であるため、警察は介入しません。
話し合いで解決すれば、そこから刑事事件に発展する可能性は低くなるといえます。
告訴状とは、犯罪被害者が犯罪事実を警察または検察に申告して、処罰を求めるために提出する書類です。
告訴状を受理すると、捜査義務や捜査の結果を被害者に報告する義務が法律上発生するため、被害届にも増して警察は受理したがりません。
⑵逮捕の要件
警察が被疑者を逮捕するために必要な要件は、「逮捕する理由」と「逮捕の必要性」です。
「逮捕する理由」は、刑事訴訟法119条1項で、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」とされています。
カメラやデータを保存されていれば、証拠となる画像や動画が残っているので、逮捕する理由はあるといえます。
逮捕の必要性は、「逃亡する恐れ」「証拠隠滅の恐れ」がある場合を指します。
風俗での盗撮が迷惑防止条例違反となった場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
殺人などの重罪であれば、逃亡を図ることも考えられますが、比較的軽い刑罰から逃れるために、家族や仕事を捨ててまで、逃亡を図る人は少ないといえます。
証拠である撮影機器やそのデータもその場で回収されていれば、隠滅の心配もないといえます。
そのため、警察に取り調べを受けることになっても、正直に真摯に応じれば、逮捕の必要性が認められる可能性は少ないです。
4 盗撮がバレた時の対処法
ここでは、もし風俗での盗撮行為が女性スタッフやお店にバレてしまったら、どのように対処すれば迅速かつ被害を最小限に抑えることができるのかについて解説していきます。
⑴逃げない
その場から逃げてしまうことで、女性スタッフやお店から反省していないと判断され、警察に通報されたり、個人情報を調べられて、高額な金銭を要求されたりしてしまいます。上の逮捕の必要性でもお話しましたが、逃げるということは、警察沙汰になった場合に逮捕の必要性があると判断されかねません。
怖くなってしまって逃げてしまったという人は、一刻でも早く弁護士にご相談することをお勧めします。
⑵カメラの奪い合いをしない
盗撮がバレてしまったことにより、カメラやそのデータの奪い合いになり、その際に怪我をさせてしまったり、怪我をさせられたと主張されてしまうこともあります。そのようなケースでは、傷害罪や過失致傷罪などの犯罪に該当して、逮捕の可能性もあります。
もし、カメラやデータをお店に奪われたとしても、取り返そうとはせずに素直に渡すことがこれ以上事態を悪化させないための最善です。
⑶要求に応じない
基本的に法律を遵守する風俗店では、盗撮が発覚したとしても、その場で金銭を要求したり、書類にサインするように求めるのではなく、弁護士を間に入れて、解決を目指します。
これに対して、その場で金銭の請求や書類にサインを求めたり、身分証や名刺などの個人情報を求めるような風俗店は悪質な可能性が高いです。
このようなお店の要求に従ってしまうと、再度金銭の支払いを要求してきたり、書類にお店側が有利になるような不備があることも多いです。
その場では応じずに、弁護士を入れてからの対応にすることをお勧めします。
⑷弁護士に相談する
もし自分自身で示談交渉を行ったとしても、全ての不安要素を取り除くことが難しいのが現状です。
金銭を支払い示談が成立しているはずなのに再度金銭の請求がきたり、免許証や名刺の個人情報が渡ったままで、悪用されないか不安なままでいたり、お店とのトラブルは解決したはずだが、警察に逮捕されるかもしれないということで不安要素が残ります。
示談の内容が適切だったのか不明なままで、悪質なお店の場合では、その示談書で交わした約束を破ることもあります。
このように有利な立場に立って、お客さんからお金をまくり取ろうとする風俗店には弁護士が効果的な存在となります。
盗撮したというこちらに問題があっても、弱みに漬け込んで法外に金銭を要求したり、脅迫を行うことは許される行為ではありません。
5 弁護士に相談するメリット
風俗での盗撮トラブルの示談交渉を弁護士にしてもらうメリットをいくつか説明します。
まず、示談の内容を適切に行うことができます。
そのために示談の中で、盗難を刑事事件しないように約束してもらうことを求めます。
そして、示談金額において、お店から法外な金額を要求されたとしても、弁護士は適正な根拠ある金額での交渉を進めます。
また、何度も金銭の請求をされることがないようにこれ以外に金銭を支払う必要がないことを意味する条項も入れます。
示談は民事上の解決方法ですが、示談の締結は刑事事件にも影響を及ぼすため、示談は慎重に行う必要があります。
6 まとめ
以上で、盗撮未遂が逮捕されるのか盗撮行為でトラブルになった場合の対処法などについて解説してきました。
盗撮未遂罪という形で犯罪は成立しませんが、各都道府県による迷惑防止条例違反になる可能性があることはご理解していただけたかと思います。
盗撮事件に関しては、各都道府県によって適用される条例が異なるため、条例に違反しているのかどうか不明なこともあるかと思います。
そのような場合には、是非風俗トラブルに強い弁護士にご相談ください。
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